そのホテルは渋谷にあって、やや静かな佇まいで存在する。ホテルの名前はセルリアンタワー東急。
2000 年にオープンした、大人びた雰囲気の素敵なホテルだ。あなたがもしあなたの大切な人を連れてゆくホテルを探しているとしたら、僕はあなたにとても素晴らしいホテルを紹介できると思います。
4月、一休でエグゼグティブフロアのジュニアスィートの部屋を予約した。エグゼグティブフロアは35階以上の部屋で、カードキーで認証しないとエレベーターは開かないセキュリティが行き届いていて、特典として35階のラウンジを使用できる。このラウンジは昼は飲み物、夜の時間は酒類が無料で供される。
渋谷の駅から歩くと、直線距離はそれほどないが、歩道橋を渡らないといけない。しかし、これがあるから渋谷の雰囲気とは隔絶されているのかもしれない。ホテルの前までゆくと時折、ビル風がすごかった。
エスカレーターを昇り、ホテルの建物に入る。落ち着いた雰囲気。ショップのある通路を出てロビーに到着すると、スタッフに声を掛けられる。荷物をお願いし、チェックインの手続きをする。
フロントの女性の事務的だが好感の持てる対応にこういうホテルだと人を連れてきても安心できるなと感じた。必要以上に親しげでもなく、不必要に愛想がなくもない。背中に連れの相手がいても安心して接することができる。適度に大事にされるということは大事だと思う。
チェックインを済ませ、部屋に案内される。このホテルのジュニアスィートの部屋は素晴らしい。決して広すぎず、もちろん、広いことは広いのだがよい雰囲気で調度品がその広さを適度に狭めていた。広すぎて空間を余しても無駄だったりする。
ベッドの枕はテンピュールだと説明を受ける。クローゼットには羽根枕の用意もあるとのこと。外国の客はテンピュールだと固すぎるというオーダーが意外に多いそうだ。以外だった。自分も家でテンピュールの枕を使っているが、外国の人は結構好んで使っていると思い込んでいた。想像と実際は結構こんなものかもしれない。
浴室は木の扉を開けて入る。中は広く、浴槽とシャワーブースは別々。浴槽は十分に体を伸ばして寛げる贅沢な広さ。洗面台は機能的で広く、バスアメニティはシックでよい雰囲気。容器も蒐集家の僕には嬉しい。この他に、サービスルームに電話すると女性用の化粧品と男性用の化粧品の用意があるとのこと。早速、所望する。
広い部屋の片側がベッドスペースになっていて、カーテンを開けると大窓の向こうには東京の意外と緑のある景色が広がっていた。高層の部屋から眺めは素晴らしい。僕は夜景よりも町並みを見渡せて、その中に点在する木々や緑を確認できるほうが都会の街並みにいての最高の贅沢だと思える。
机はガラス製。広い部屋にあって、やや華奢な印象を受けるが座って書き物をしてみると意外としっくりとくる。便箋をはじめとするレターセットもよい雰囲気だし。
当日はやや曇天だったが、印象的だったのは高層の階の大きな部屋の窓から見た白いビニール袋。村上春樹の「風の歌を聴け」のティッシュのように思えた。こんな高い場所をなぜ小さなビニール袋が風に吹かれて舞っているのか。
実はこの日は村上春樹の小説集「象の消滅」を持ち込んでいて、夕方にはエグゼクティブフロアのラウンジに出向き、一時間ほどページを捲るのに没頭した。
ラウンジはそれほど広くはないが、スタッフがいて飲み物のほかに簡単なつまみが用意されていた。これもエグゼクティブフロアの特典で無料。夕方からしばらくは僕のほかの客はいなく、静かな環境でときどきは飲み物のお代りをしながらの読書は贅沢な時間だったと思う。
夜はアルコールも無料で出るので、その時間になると客足がまばらにも窺えるようになり、僕は贅沢に時間と場所を占有していたので、速やかに退散することにした。このラウンジは簡単な朝食も摂れ、僕は翌朝もちろん朝食を摂ったのだけれど、なかなかの出来でした。贅沢でもなく、貧相でもなく。
夜の食事はホテルの中で済ませた。鉄人陳健一の店。細かい気配りの利いた店で、特に感心したのは二人で一品ずつ(麺類)オーダーしたのだけれど、普通だったら取分け皿が用意されるところ、それぞれがやや小さい丼に二つずつきちんと具もトッピングされて出てきたんです。こんな気配り僕ははじめてでした。
こういった経験というか体験が僕にますますこのホテルを好きにさせてくれました。僕の相方も感激してました。今回は二人でホテルに宿泊すると、これから数年はおそらく二人では宿泊できないという状況だったので、本当にこのホテルを選んで正解だったと思いました。
食事の後でゆっくりと浴室を堪能しました。バスアメニティのモルトンブラウンで泡立つ浴槽。ふかふかのバスローブを羽織って寝巻き代わりにそのままベッドにもぐりこみました。すべらかなのになんともいえない抱擁感。
翌朝はエグゼクティブラウンジで朝食を摂り、チェックアウトの時間まで浴室で湯浴みしたり、外を眺めたりとゆったりと贅沢に過ごしました。自分の皮膚の上に堆積した日々の疲れや澱が綺麗に取り除かれたような気持ちよさでした。
大事な人を連れて宿泊するには素晴らしいホテルだと思います。
(Text:月の輪)
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